「ざっくり」わかる自社株式の相続税評価

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承継二郎
相続税の計算にあたっては、自社株式の評価がややこしい、と聞きました。
貝井
自社株式の評価はややこしいですが、相続財産に占める割合が高い場合も多く、相続税の金額に大きな影響があります。
今回は最もシンプルなケースを「ざっくり」説明いたします。

 

自社株式評価の細かい話

自社株式評価は、相続税法上は、「取引相場のない株式の評価」という用語を用います。

細かい話をすると、株主の態様(同族会社か非同族会社か)、会社の態様(特定の評価会社か一般の評価会社か)によって、評価方法は異なります。

そして、非同族会社や特定の評価会社の定義を利用して、相続税対策を講じることもよくあります。

 

とはいえ、今回は、自社株式評価を「ざっくり」理解することが趣旨です。

あなたの会社も、経営者自身やその身内が株主で、なんらかの実業を営んでいる会社だと思います。

そのような、一般の中小企業のほとんどが該当する、「同族株主で、一般の評価会社」に適用される「原則的評価方法」について説明します。

甲社の自社株式評価の例を通して、自社株式評価のイメージを掴んでください。

 

会社の態様の判断基準

自社株式の評価は、「会社の態様」によって変わります。

会社の態様は、「大会社」「中会社」「小会社」に分類されます。

「中会社」はさらに、「中会社の大」「中会社の中」「中会社の小」に分類されます。

会社の態様は、「従業員数」「直前期末の総資産価額」「直前期末以前1年間における取引金額」によって判断され、業種ごとに判断の基準となる数値は異なります。

この判断は複雑で長くなるので、今回は説明を割愛します。

今回は、計算の流れ、イメージを理解していただき、細かい事項は税理士さんに確認して下さい。

 

ここで、甲社は、印刷業であり、従業員30名で、総資産価額が6億円、取引金額が1.8億円であったとします。

この場合には、甲社は、「中会社の中」に分類されます。

原則的評価方法

原則的評価方式には、類似業種比準方式と純資産価額評価方式の2つがあります。

「大会社」であれば、類似業種比準価額方式という方式で評価します。

「中会社」「小会社」であれば、類似業種比準価額方式と純資産価額方式を併用して評価します。

 

類似業種比準方式

類似業種比準方式は、以下の式で株式を評価します。

なお、配当や利益、簿価純資産額は、一株当たりの金額です。

上場会社の株価、配当、利益、簿価純資産額は、国税庁『平成30年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)』の「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から抽出します。

甲社が印刷業を営んでいた場合、平成30年8月の上場会社(印刷業)のデータは以下のようになっています。

上場会社の株価 176円
上場会社の配当 2.6円
上場会社の利益 18円
上場会社の簿価純資産額 252円

 

ここで、甲社のデータが以下のようになっていたとします。

甲社の一株当たり配当 0円
甲社の一株当たり利益 5円
甲社の一株当たり簿価純資産額 500円

 

この場合、甲社の株価は以下のように算出されます。

類似業種比準方式によるでの株価評価は、79円となります。

 

純資産価額評価方式

純資産価額評価方式は「会社を清算したらいくらになるか」という考えに基づき株価を評価する方法です。

簿価純資産に、相続税法上定められた資産・負債の評価替えの影響を反映させて、株価を算出します。

評価替えの対象となる項目は多岐に渡りますが、影響が大きくなりやすいのが、土地、建物、有価証券などです。

 

たとえば、甲社の発行済み株式が200千株、簿価純資産が100,000千円だったとします。

簿価純資産からは、100,000千円 ÷ 200千株 = 500円

一株当たり簿価純資産は 500円になります。

 

しかし、純資産価額評価方式では、それだけでは十分ではなく、評価替えの影響を反映させる必要があります。

甲社において、以下のような資産を有していたとします。

資産 簿価 相続税評価額 差異(含み益)
土地 70,000千円 100,000千円 +30,000千円
建物 30,000千円 20,000千円 -10,000千円
上場株式 10,000千円 30,000千円 +20,000千円
合計 110,000千円 150,000千円 +40,000千円

 

この場合、差異である含み益を、簿価純資産に加えます。

ただし、加える含み益は、100%ではなく、税金分の37%分を除いた、63%分になります。

 

よって、計算式は以下のようになります。

[100,000千円(簿価純資産)+{40,000千円(含み益)×(1-37%)}] ÷ 200千株 = 626円

純資産価額評価方式での株価評価は、626円となります。

 

原則的評価による最終評価額

類似業種比準方式では、79円、純資産価額評価方式では、626円と算出されました。

最終的に、自社株式は下記のように評価します。

 

  • 大会社   類似業種比準方式
  • 中会社の大 類似業種比準方式 × 0.9 + 純資産価額評価方式 × 0.1
  • 中会社の中 類似業種比準方式 × 0.75 + 純資産価額評価方式 × 0.25
  • 中会社の小 類似業種比準方式 × 0.6 + 純資産価額評価方式 × 0.4
  • 中会社の大 類似業種比準方式 × 0.5 + 純資産価額評価方式 × 0.5

ただし、いずれの場合も、純資産価額の方が低い場合には、純資産価額で評価します。

 

ここで、甲社は「中会社の中」でしたので、

類似業種比準方式 × 0.75 + 純資産価額評価方式 × 0.25 に当てはめます。

79円 × 0.75 + 626円 × 0.25 ≒ 215円

 

以上から、甲社株式の相続税評価額は、215円と算出されました。

 

自社株評価の留意点

相続税評価とM&Aでの株価評価

ここでの評価は、あくまでも、「相続税法上の評価」です。

M&Aなどの株価評価とは大きく異なります。

 

相続税の評価額を、相続人の自由に任せた場合、自社株式をできるだけ低く評価して相続税を低く抑えたい、というインセンティブが働いてしまい、国家は相続税をとれなくなってしまいます。

そこで、相続税法においては、評価方法を一律に決定することで、税収の確保と課税の公平を維持しようよしているのです。

 

しかし、M&Aであれば、話は異なります。

第三者との取引であれば、お互いに自分の利益を最大限にしようと交渉します。

この結果、決定される株式の評価額は、取引の結果として尊重されるのが原則です。

極端な話、みなさんが私のサービスを1億円で購入したとしても、私とみなさんは第三者なので、その取引の妥当性について税務当局は口出しできないのが原則です(実際には、怪しい取引として目を付けられるでしょうが)。

ソフトバンクがM&Aでイギリスのアーム社の株式を3兆円で購入しました。

アーム社の株式に3兆円もの価値があるのかどうかは不明ですが、取引の結果である以上、税法上の問題となるわけではありません。

要するに、M&Aでの評価額に、相続税法上の評価額を用いる必要はありません。

 

相続税法上の評価結果からの考察

甲社の株式は、類似業種比準方式では、79円、純資産価額評価方式では、626円と評価され、大きな差異があります。

純資産価額評価方式が、類似業種比準方式よりも大幅に高くなってしまうことは、中小企業ではよくあります。

長年の社歴で純資産が蓄積されている一方で、直近の業績はそこまで好調とはいえないことが多いからです。

ということは、類似業種比準方式の割合を高めた方が有利です。

甲社が「中会社の中」から、「中会社の大」に上がった場合、評価額は以下のようになります。

 

79円 × 0.9 + 626円 × 0.1 = 133円

 

なんと、現状の215円から、133円に下がります。

相続税法上の株価評価も、必ずしも固定なのではなく、様々な対策を講じることも可能なのです。

 

まとめ

自社株式評価には、類似業種比準方式と純資産価額評価方式があり、会社の大小により、それぞれの評価方式をどのような割合を用いなければならないかが変わります。

あくまで、相続税の株式評価方法で、M&Aでは当事者の取引額が評価額です。

また、自社株式評価にも、様々な対策があります。

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