「ざっくり」わかる改正事業承継税制

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承継二郎
事業承継税制が改正されて、事業承継がしやすくなると聞いたのですが。。。

 

貝井

事業承継税制とは、自社株式に関する「贈与税」や「相続税」の負担を軽減できる制度です。

事業承継を後押しするために、平成30年の税制改正で、大幅に改正されより使いやすくなりました。

「贈与」でも「相続」でも利用できますが、今回は「相続」の事例でイメージを「ざっくり」ご説明します。

 

 

事業承継税制の前提条件

事例をご説明する前に、まずは、事業承継税制に関する前提条件を理解してください。

 

株式評価額の目安

1点目は、株式評価額が1億円未満であれば、利用するメリットは少ない、ということです。

あくまで、自社株式に関する相続税や贈与税の軽減措置です。

ですので、そもそも、相続税や贈与税を負担する必要がない経営者は検討する必要はありません。

また、事業承継税制は、当然ですが、税理士報酬や事務コストなどがかかります。

それを考慮すると、相続税や贈与税がそれほど高くない場合にも、費用対効果が合いません。

その目安は、だいたい、自社株式の評価額1億円以下であれば、そもそも検討の必要はないかと思います。

 

「通常」の制度と「改正」された制度の関係

2点目は、あくまで「通常」事業承継税制が存在し、「改正」は今後10年間のみに適用される特例措置である、ということです。

つまり、10年後には、また、「通常」事業承継税制に戻るということになっています。

「10年も先のことなど、どうでもよい」と思われるかもしれません。

しかし、事業承継税制は、「贈与」や「相続」に関する税金の制度です。

経営者が亡くなるのが、10年以内とは限らないですし、そもそも、後継者の次の世代への承継をも視野に入れて検討しなければならない制度になっています。

ということは、10年後の「通常の」事業承継税制も理解しておかなければなりません。

もっとも、本当に、10年後に「通常の」事業承継税制に戻るのかどうかは怪しいのですが。。。

「通常」事業承継税制

改正された事業承継税制を説明する前に、まずは、「通常」事業承継税制について説明しましょう。

「通常」事業承継税制 事例

【事例】

A商事は、従業員100名、資本金3千万円の中小企業である。

株主は甲氏(創業者で代表取締役社長)が100%(300株)保有している。

✕1年に甲氏が亡くなり、乙氏が会社の後継者となり、株式も相続した。

なお、株式の評価額は3億円(1株100万円)で、相続税課税額(諸条件は無視してざっくり計算)は7,000万円である。

 

この事例において、相続の事業承継税制を適用したとします。

適用できる株式は、300株×2/3=200株です。

相続税額7,000万円×2/3×80%=3,700万円の税金が「猶予」されます(「免除」ではない)。

逆に言うと、3,3000万円は納付する必要があります。

その後、×25年に乙氏から、さらに、その息子の丙氏に譲渡されると、猶予された3,7000万円は「免除」されます。

「猶予」が取り消される条件

たとえば、以下のような事象が生じた場合には、猶予が取り消され、3,700万円を納税しなければならなくなります。

① 雇用要件を満たさなくなった

×1年から×5年にかけて、A社の従業員の平均が75人になってしまった。

② 譲渡や廃業

×11年に、大手のB社に株式譲渡をすることになった。

×11年時点での株式評価額が1億円(×7年時点では3億円)であったとしても、相続時の株式評価額3億円をもとに課税されます。

 

主な事業承継税制の改正点

「通常の」事業承継税制について事例をみてもらったところで、「通常の」事業承継税制と「改正」事業承継税制との違いを見てみましょう。

 

通常の事業承継税制 改正点
対象となるのは、株式数の上限2/3。

納税猶予割合は贈与100%、相続80%(実質50%程度しか猶予されない)

株式数の上限なし。

納税猶予割合も100%に拡大

1人の先代経営者から、1人の後継者への承継を想定 複数の株主から、複数の後継者への承継も可能に
自主廃業や売却をした場合、承継時の株価をもとに課税 売却額や廃業時の評価額をもとに課税
5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ猶予打切り 未達成でも猶予継続可能(認定支援機関の指導助言が必要)
通常の事業承継税制(都道府県庁に「年次報告書」、税務署へ「継続届出書」)の手続き 通常の手続きに加えて、特例承認計画の提出も必要

「改正」事業承継税制

では、さきほどと同じ事例において、「改正」事業承継税制を適用するとどうなるか、説明します。

「猶予」される税額の増加

適用できる株式は、300株すべてです。

相続税額7,000万円×100%=7,000万円の税金全額が「猶予」されます(「免除」ではない)。

その後、×25年に乙氏から、さらに、その息子の丙氏に譲渡されると、猶予された7,000万円は「免除」されます。

 

猶予される税額が、3,700万円から、7,000万円へと拡大されています。

「猶予」が取り消される条件の緩和

① 雇用要件を満たさなくなった

×1年から×5年にかけて、A社の従業員の平均が75人になってしまった。

このような場合でも、認定支援機関の指導・助言があれば、猶予は継続可能になりました。

 

② 譲渡や廃業

×11年に、大手のB社に株式譲渡をすることになった。

×11年時点での株式評価額が1億円(×7年時点では3億円)であれば、譲渡時の株価1億円をもとに課税されます。

これにより、猶予された相続税7,000万円よりも、課税額は小さくなります。

 

猶予が取り消されると納税しなければならなくなるのは同じですが、その条件や課税額が緩和されています。

対象となる株式の拡大

たとえば、事例において、A商事の株主が以下のようになっていたとします。

 

【事例】

A商事は、従業員100名、資本金3千万円の中小企業である。

株主は甲氏(創業者で代表取締役社長)が30%(90株)、丙氏(60株)、丁氏(45株)、その他(105株)保有している。

 

この場合、「通常の」事業承継税制では、甲氏の株式のみが対象となり、丙氏、丁氏の株式は対象とはなりません。

しかし、「改正」事業承継税制では、甲氏のみではなく、丙氏、丁氏の株式も対象となるのです。

 

事業承継税制の課題

「改正」事業承継税制は、税金を払わなくてもよいバラ色の制度、と思われたかもしれません。

しかし、デメリットもありますので、費用対効果を考慮して導入する必要があります。

事務処理手続

まずは、事務処理手続きの煩雑さです。

相続においては、申告後5年間は、毎年都道府県庁に「年次報告書」、税務署へ「継続届出書」を提出しなければまりません。

6年目以降も、3年ごとに「継続届出書」を提出しなければなりません。

また、「特例」事業承継税制を適用するためには、「認定経営革新等支援機関」の指導および助言を受けて「特例承継計画」を作成して都道府県に提出しなければなりません。

「10年」という期間の限定

次に、「10年」と期間が限定されていることです。

「相続」の場合は言うまでもなく、「贈与」の事業承継税制においてもこれはネックになってきます。

「贈与であれば、好きなときに渡せばよいのでは?」と思われるかもしれません。

しかしながら、10年以内に後継者が立派な経営者になるとは限りません。

特例制度を活用するために、無理やり後継者に株式を渡した結果、後継者に経営者の素養がなかった場合には禍根が残ります。

まとめ

事業承継税制は、贈与税や相続税が猶予される制度です。

改正により、使いやすくなり、経営者の事業承継を後押ししてくれています。

しかしながら、デメリットもあるので、費用対効果を充分検討したうえで導入してください。

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