従業員承継のメリットと課題

Pocket

承継二郎
従業員承継の方が、能力のある後継者を選べるので、いいようにも思えますが。
貝井
確かに、そのような側面はあります。しかし、株式・財産面での課題がなかなか大きいのです。

 

従業員承継のメリット

経営の承継と、株式・財産の承継に分けて考えてみましょう。

経営の承継

① 血縁者がいない場合でも会社の存続が可能

最近では、後継者がいない会社が増えています。

このような会社であっても、従業員に承継させることによって、廃業を回避して、会社を存続させることが可能となります。

 

② 能力ある人材を登用できる

血縁者という限られた母集団の中では、とくに、長男、と限定している場合には、必ずしも能力の高い人材が後継者になるとは限りません。

しかし、従業員であれば、仕事ぶりを見ながら多数の従業員の中から後継者候補を選ぶことができます。

 

③ 後継者の事業・会社風土に関する理解度が高い

親族に後継者がいない場合、たとえば、M&Aで第三者に会社を売却するという選択も考えられます。

しかし、第三者が、事業や会社風土に対する理解度が高いとは限りません。

異業種が買手となった場合ならもちろん、同業者が買手となった場合であっても、他社の事業に完全に精通していることは期待できません。

これにより、買収後に混乱が生じることがときどきあります。

一方で、従業員であれば、何十年と会社に勤務している者が選ばれるのが通常です。

事業や会社風土に対する理解度が高く、会社を承継したあともスムーズに経営を継続することが可能になります。

 

④ 会社の理念・風土が維持できる

とくに、会社の理念・風土といったものは、事業内容などと比べた場合に、客観的に可視化することが難しいにもかかわらず、会社にとって重要なものです。

第三者が後継者となった場合には、意図的に、また、意図的でなくても変更させてしまうことがあります。

従業員が後継者となった場合には、それまでの会社の理念・風土を体得しているため、理念や風土を変更させてしまうリスクが軽減されます。

 

⑤ 後継者に社内での知名度があり、浸透が早い。

後継者が誰になるかは、社内はもちろん、社外の取引先などにとっても、重要な関心事項です。

第三者が承継した場合、いわば落下傘的に後継者になるため、まず、後継者が誰なのか、ということを認知させることに時間がかかります。

一方で、すでに会社に何十年と勤めている従業員であれば、社内外でその名を知られているはずであり、その後の経営も比較的スムーズに進めることができます。

 

⑥ 事業の抜本的見直しの好機

親族内承継の場合には、やはり、後継者は先代経営者を無下にはできず、新規事業に軸足を移すことなく、先代の路線を踏襲することになりがちです。

しかし、従業員承継の場合には、そのようなしがらみが比較的少ないため、抜本的な見直しもしやすくなります。

 

株式・財産の承継

① 親族内承継と比べ、「チーム」で承継する選択肢が増える

従業員承継の場合、「経営陣」で承継することもよく行われます。

つまり、Aさんは社長、Bさんが営業担当取締役、Cさんが管理担当取締役となり、株式もAさんに40%、Bさんに30%、Cさんに30%というような形での分配がされます。

このように、必ずしも、後継者だけに株式を集中させる必要がない、という点で選択肢が広がります。

 

従業員承継の課題

従業員承継のメリットだけを見てみると、従業員承継はバラ色のように見えます。

しかし、従業員承継にも課題はあります。

経営の承継と、株式・財産の承継に分けて考えてみましょう。

とくに、従業員承継においては、株式・財産の承継が大きなネックになってきます。

 

経営の承継

① 現事業が減退基調である場合、抜本的な解決策とはならない

もちろん、従業員後継者は親族内後継者に比べて、能力がある者が選ばれる場合が多いです。

そこで、その能力を活かして、会社をさらに発展させることを期待しがちです。

しかしながら、現事業が減退基調である場合には、後継者の能力だけで、会社を立て直すことは困難です。

会社の事業そのものを見直さなければ、立て直すことはできません。

 

② 後継者に経営への覚悟と責任を持つ必要がある

中小企業の従業員の多くは、自らが経営者になることを想定している者は多くありません。

ほとんどが、あわよくば、役員くらいにはなれるかもしれないが、勤め人として一生を終えることを想定して入社している従業員がほとんどです。

仕事に失敗しても、上司や社長に怒られる、という程度の認識でしょう。

しかし、経営者になれば、従業員の生活を背負い、自分の意思決定によって、会社の未来が大きく左右されます。

このようなプレッシャーが半端ではないことは、経営者なら誰もが認識しているところです。

このような立場の違いに適合できるかどうかは未知数です。

従業員として優秀な者と、経営者として優秀な者は、必ずしも一致しないのです。

 

株式・財産の承継

① 後継者が借入金に対して、「保証」できるかがハードルとなる

経営者であれば、借入金に連帯保証をすることが、半ば当り前という感覚でしょう。

そして、事業に失敗して、資金を返済できなくなれば、全ての財産を失うことになる。

これをバネにして、覚悟を持って、必死になって経営に当っているわけです。

しかし、従業員にとっては、連帯保証を背負う、ということを考えていないはずです。

そういうリスクを負いたくないから、雇われ人をやっているんだ、という従業員も多くいるでしょう。

よくあるのが、従業員自身は、保証を背負って経営を引き継ぐことに承諾していても、従業員の配偶者が保証を背負うことに強烈な抵抗を示すことです。

「連帯保証なんか背負うくらいなら、離婚する」と言わんばかりです。

というか、実際に配偶者に言われた例を知っています(笑)。

このような配偶者の抵抗によって、後継者となることを諦める従業員は多いのです

 

② 現経営者が保証を継続しなければならないケースが多い。

では、従業員が保証を引き継ぐことを拒否した場合、どうなるのでしょうか。

金融機関が「それでは仕方ないですね」と保証を解除してくれるかというと、もちろん、そんなことはありません。

経営者が保証を引き継ぐことになります。

自分自身の経営のリスクを背負うことはともかく、他人(従業員の後継者)の経営のリスクを背負うことは勘弁してくれ、というのが経営者の本音ではないでしょうか。

このようなリスクを背負うことが嫌ならば、事前に連帯保証債務を解除する必要があります。

 

③ 後継者の株式買取資金が一般的には低い。

自社株式の評価が高い場合には、ときによって、株式の評価額が何億円になることもあります。

親族であれば、最終的には、相続で株式を承継することが可能です(もちろん、相続税はかかります)。

しかし、従業員が何億円もの資金を捻出して、株式を買い取ることは現実的ではありません。

つまり、従業員から資金を回収できるスキームを別途構築する必要があるのです。

 

まとめ

従業員承継は、能力のある後継者を選択できたり、承継後の経営もスムーズにできる、という経営面でのメリットがあります。

しかし、実際には、連帯保証の承継や、株式の買取り資金などの株式・資産面での課題が大きく、なかなか難しいのが現実です。

関連する個別具体的なお悩み解決サポート業務

事業承継計画策定・運用支援

連帯保証解除支援